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森の書斎から 〜 Silvio's Words
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Silvio's Words
 
車のオイル交換のように、暮らしの見方も変えてみる
2005年1月26日(水)   

なんとなく僕の心の調子が悪い時、うちの丈夫な日本車テリオスのオイルを変えに、セルジョの家に行く。まるで山道を登っていくヤギのように。

セルジョ・リッチは、このウンブリアの丘陵地帯にある、我が家のご近所さんの一人だ。年齢は34歳だが、実際には25歳くらいに見える。天使のような顔に純粋なハートは、モーターのオイルで汚れた手や作業着と正反対だ。彼は修理工である。仕事はなかなか上手くいっている。「多分、上手く行き過ぎているくらいだよ」とセルジョはため息をついた。「奥さんのモニカや二人の子供、デボラとアレッシオと一緒にいる時間が十分にとれないんだよ。」デボラは6歳の女の子で、今年小学校に上がったばかりだ。読み書きも上手だ。アレッシオは4歳の男の子で、うちの息子トモと同じ幼稚園に通っている。

しかし、セルジョの人生は、簡単ではなかった。とてもきつかった。オイルの栓を開けながら、十四歳の時のことを話してくれた。「十四歳の時、自分にとって学校や教科書は意味のないものだとわかったんだ。僕の家は兄弟、姉妹、両親や叔父、叔母をあわせて28人で暮らしていた。できるだけ早く何か手に職をつけることを考えなければならなかった。ラテン語の歴史やイタリア語の授業は、僕にとってはパンでなかった。それで家から一番近い職業訓練学校に入学した。フォリンニョという街の学校だった。2年間、朝5時に起きて原付で近くの村に行き、バスに約一時間乗って電車の駅につく。そこからフォリンニョまで電車に乗り、その駅の電信柱にチェーンをかけてある、古い自転車に乗り、寒い中4キロの道のりを学校まで通ったものだ。午前九時ちょうどに、
特別に他の生徒より1時間遅れで着くことを許可されたパスポートを提示しながら。片道3時間半の通学。帰りももちろん同じ時間がかかる。寒さがまるで体にナイフが突き刺さるように感じる日が何日もあった。あるもの全部着込んでいたよ。コート2枚にレインコート、上下の作業服、靴下3枚に手袋2枚・・・」。やっぱり自分のこと犠牲者とか殉教者とか思っていた?人生はとてもじゃないけどつらすぎると思っていた?と聞いてみた。

「え、誰が?僕?冗談でしょ。電車に乗ったことがなかったから毎日がすごい冒険だったよ。となりには他の学生や労働者がのっていて、いろいろな世界の勤労者の人達がいたよ。その中で、僕も大人の男になった気分だった。もう家の中のヒヨコじゃなんだぞと思っていた。学校ではいろんなことを勉強したよ。先生達は僕の手仕事の才能を大事にしてくれたし。毎日自分に自信がついてきて、自分の将来が開けていく感じだった。」

二年間の授業が修了して、セルジョは学校に行く時にバスが通る近くの村で、機械の整備工場に11年務めた。「そこは僕にとっては大学だったよ」と新しいオイルをモーターに注ぎながらニコニコする。「トラクターや草刈り機、刈り取り機、その他いろんな農業の車のそれぞれの秘密を覚えたんだ。」

そしてその後、大きな前進をすることに決める。独立することにした。「最初の一日目はパニックになったよ。今でさえ一日中一人で全部こなしているけど、その時はまるで動物園のライオンがオリの中を行ったり来たりするみたいに不安だった。」

仕事はなかなかこなかった。一日がいつまでたっても終わらないような気がした。仕事場は家の裏の下側に作ったから、外からはまったくわからない。看板を置く場所もないから誰も来なかった。でも最初の娘が出来た時に、すごくいいことを思いついたんだ。誰も僕の所に来ないんなら、僕の方から行ってやればいいんだ。箱形のトラックを改造して、本物の動くオフィスにしてしまった。父親レミッジョと一緒に狩りに行っていた時のように、田園をまわり始める。狩りは二人で猟銃一丁だった。話しながら表情が活き活きしてくる。「父が3発、僕が1発という具合にかわりばんこに撃ったよ。」

緑の丘の、広大な白いレースのように穴の開いた白い道を、動くオフィスはゆっくりと走った。誰か機械のことで困っていると、近づいていって手伝う。「セルジョはブラーボ。どんな時も役に立つ」。すぐにどこが壊れているかわかるし、彼の顔から信頼が持てる。そして修理もとてもはやい。もし自宅に持って行かなければならない場合も、2時間もすれば新しい部品をつけて持って来てくれる。戻ってくる時、彼自身も熟練の顔をみせているよ。

セルジョは典型的な仕事熱心で賢いイタリア人の例だ。ゼロからはじまって、誰の力も借りずに一人で道を切り開いてきた。今では仕事もたくさんある。他に誰かを雇って仕事を拡大し、儲けを増やすこともできるのに、「なんで?何のために?僕はこれで満足してるよ」と言う。「家族がいて両親も一緒、おじいちゃんおばあちゃんの愛情もあって子供はすくすく育っている」。「僕が子供の時のことを考えると、肉を買うお金がないから雪が降るのを待って罠をしかけに行き、小さな野鳥を獲ってポレンタ用に(トウモロコシの粉を茹でた食べ物・冬の寒い時に食べる)煮て食べたよ(いつだったか、34羽も罠にかかったことがあって、忘れられない思い出だよ)。そんなことを考えると、今の暮らしは夢のようだ。仕事もあるし機械技師として評価されている、奥さんも子供も二人いる。必要なものは全部そろっている。ノー、グラツイエ、他には何にもいらないよ。それぞれ自分のサイズにあう場所が世界のどこかにはあるんだ。僕は僕のを見つけたよ。」

セルジョの話はとてもシンプルで控えめで、まるで楽しい散歩のようだった。人生に満足し、穏やかに晴れわたった彼を見ていたら、車がまっすぐおりていくように、僕の中の心配や不安は和らいだ。

残念ながら、オイル交換は終わった。行く時間だ。「もし神が望んだら(se dio vuole)、また会いましょう」(この辺りでよく言う別れの挨拶)。本当に神が望んでくれるといいんだけど。残念ながらオイル交換は二万キロ走るまで交換しなくてよいから、もっと彼とおしゃべりできるように何か機会をつくろうと思った。僕の中の古くなったモーターも、もっとよく回って長く使えるかもしれない。

シルヴィオ・ピエルサンティ
2005年1月25日


   

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