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森の書斎から 〜 Silvio's Words
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Silvio's Words
 
花嫁道具(後編)
2005年11月2日(水)   

マリア・リータ・モレッリ(?歳)は、結婚して2人の娘がいる。この分野で彼女の右にでる人はまずいないだろうと言われている。遠い所から彼女の作品を注文する人までいる、すばらしい手芸家だ。長い作品の予約リストがあり、予約待ちも数多い。少なくとも、花嫁になる2年前から予約しないと間に合わない。

「自分の作品を手離すのには勇気がいるわ。作品には私の全身全霊と人生をかけているの。作品が人の手に渡るときは自分の子供が離れる時のように心が痛むのよ」とマリア・リータは言う。

彼女の創立した手芸学校には、いろいろな世代の女性が夢中になって習いに行く。学校に入会するために、年の始めには長い列ができる。

「はじめは最もシンプルな縫い方から習いましょう。一日に織りしろ一つ。そして糸を抜く作業」とマリア・リータは生徒に説明をする。

縫い方には“糸抜き”“切り抜き”“装飾”“ブロカテール(紋襦子)”“網目”“槍”“幾何学模様”“タッチングレース”などなど、様々な技がある。“マリア・リータ縫い”という彼女が発明した縫い方は、今ではウンブリア州の伝統の中のひとつになっている。

インタビューの途中、いくつかの作品を紹介してもらったが、どれもその美しさとピュアな印象に目を見張る。まるで完璧にできた真珠、純粋な音色、露のしずくのようだ。長い時間と手間をかけてできる作品は、針と糸だけで作ったとは思えない程だ。なんて才能と忍耐のいる作業だろう。

「その他大勢のウンブリアの女性のように、私も6歳で刺繍を習いはじめました。学校で修道女が指導にあたるのです。何時間も何時間も、午前中も午後も。本当に、日曜日も入れて毎日練習したわ。でもそれが楽しかったのよ。あの時代では今みたいに娯楽が少なかったし、喜んで通ったわ。修道女たちはレッスン以外にもみんなで遊ばせてくれたし、おやつももらえたし、なによりも修道女たちは私たちのことを本当にかわいがってくれたわ。」とマリア・リータは話す。

「今でも修道女たちは私たちの娘に刺繍を教えます。近くの修道院だと、ヴィンチェンツィア修道女がタッチングレースを、アレッサンドラ修道女がレース編みとその他の縫い方を。」

「始めてしばらくしたら、私の先生だったジャチンタ修道女は私が特別な才能の持ち主だと気がついたの。彼女はウンブリアではかれこれ4世代に渡って刺繍を教えている先生なのです。まだ若い私に、それはむずかしい縫い方をどんどん教えてくれました。それは私が将来プロとしてやっていけると確信したからでした。」

「中国製の機械で縫った商品が溢れかえる今の時代でも、仕事には事欠かない。工場製品は、例えば大きなテーブルクロスをほんの数分で縫うことができますが、私が縫うと、大変な思いをして2ヶ月かかります。でも手縫いと機械縫いでは違いは明らかです。布の質、デザイン、縫い目、値段などすべてに違いが表れています。」

「逆に言えば、機械の仕事は手仕事がどんなにすばらしいものかをわからせてくれます。自分で選んだ麻の質、オリジナルのデザインは機械とは比べ物になりません。作品を見れば、200ユーロ(約2万8千円)のタオル、または千ユーロ(14万円)のシーツの値段に納得がいくはずです。」

マリア・リータ・モレッリは、現在アビリアーノの“金の糸協会”を管理している。この協会では彼女が選んだハイレベルな手縫い刺繍をする女性のグループが仕事をしている。協会の目的はイタリアに作品を広めること、手縫い刺繍や手縫いレースの芸術を海外に広め、作品の展覧会を開き、伝統を伝えていくことにある。

「私は白い麻の布を前にすると、まるで大理石の固まりを前にしているような錯覚に陥ります。まるで彫刻家が最初の一彫りをする前から、その固まりの中に作品をイメージしているように、余分な部分を削り落として作品を仕上げるように、私の作品は白い麻の中にすでにあるのです。ただ余分な布を除くよう、針を決まった場所に動かしていくだけなのです。」

聞いていると簡単なようだが、彼女の作品を一つでも見れば、それが恐ろしく難しいことなのがわかる。ただの麻の布がすばらしい芸術作品となり、美術館に飾られることに納得ができるはずだ。

シルヴィオ・ピエルサンティ
訳、朝田今日子


   

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