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Silvio's Words
 
トスコラーノの栗祭り(前編)
2006年11月2日(木)   

賑わう人々
賑わう人々
 飛行機のチケット代を払ってまで行こうと思うレストランがあるだろうか、と時々考えてみる。毎年10月末に行なわれるトスコラーノの栗祭りは、日本からのチケット代を払っても、十分その価値はあるのではないかと思う。飛行機はまるでタイムマシンのように、時間の止まったような美しいトスコラーノの世界へと導いてくれるだろう。

 何世紀も前から広大な栗の木の山に囲まれたこの地は、古代ローマの兵士たちが、栄光の戦いと皇帝の護衛の役割を終えて年金生活を送った場所でもある。政府は兵士たちにこの土地を贈与したのである。

 栗祭りの昼食は、どこの料理本にも載っていない昔からこの地で食べられてきた栗をベースにした料理だ。作っているのは村の主婦たちである。今年は270人いた幸運な参加者のうちに入ることができた。前菜からデザートまで、香り高い地元のワイン(ボジョレー・ヌーボもなんのその)もついて、美しい中世の街並の残る村の広場で舌鼓を打った。そこから広がるなだらかな丘陵地帯、その先のアペニー山脈へと続くすばらしい景色を見ながら。

 まず、トスカーナ豆と豚の皮をトマトと栗で煮込んだ豆料理。次に栗とヒヨコ豆、小さいパスタを煮込んだミネストラ。そして栗がたっぷり入ったソースをかけた豚肉料理、デザートは栗のクリームと洋梨のクロスタータ(タルト)。おいしい料理が次々とでてくる。
主婦たちが代々受け継いできた、レストランでは見かけない料理の数々は、1人たった16ユーロで満喫できる。
 
 標高600メートルにあるこの村は、村全体がカタツムリの殻のように丸く一周できる。建物も千年前の物を修復しながら残してある。空気もピリッと澄み渡っている。村の住人はシンプルで寛大、親切だが、グローバル経済を鵜呑みにしないよう、細心の注意を払っている。

 ウンブリア州の各村には、フィエーラ(Fiera・収穫祭)を行わない村はない。サルシッチャ、ポレンタ、キノコ、トリュフ、アスパラやニョッキなどなど、全て名を挙げたら何ページにもなりそうなくらい。だがほとんどは、金儲けを前提にしたプラスチックのおもちゃや洋服、靴、絨毯や電気などを売る屋台が占領してしまっている。世界中どこででも手に入る品々は、安い値段で、ほとんどが中国製のものばかりだ。収穫祭とはまったく関係がない。これが収穫祭の雰囲気を台無しにしてしまう。

だがトスコラーノは違う。ここでは祭りは栗だけだ。少数の屋台は住人が栗やハチミツ、手作りの栗菓子を売っているだけだ。数えきれない程たくさんのおもちゃや洋服の“中国屋台”をださないかとの勧誘はすべて断っている。これらの屋台を出せば、村の収入もグンと増えるが、住人の収穫祭への思い入れの方が勝っている。
(後編へ続く)
 
シルヴィオ ピエルサンティ
(訳 朝田今日子)


   

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